カナダ香取神社について
香取の歴史と、私たちの歩み
神社とは、神様の御心と、その地で祈りを捧げる人々の願いが結ばれる場所です。目には見えぬ御存在だからこそ、神社神道では、神様をお迎えし、お祀りする儀礼を極めて大切にしてまいりました。
私たちが古式に拘る理由は、そこに理屈を超えた価値があるからです。遠い昔から一筋に受け継がれてきた所作や作法を、一切の妥協なく厳修すること。その「型」を連綿と継承することこそが、伝統を継ぐ者に課せられた使命です。
神社を創設するにあたり、個人の判断のみで神様を祀ることはできません。神職とは、伝統という確かな橋を介して、神様の御神威をこの地に正しくお迎えするための「仲介役」です。由緒ある神社から御分霊を拝受し、遷座祭という厳粛な儀式を執り行うこと。この一連の古式に則った神事を厳修して初めて、神様はこの地に安寧に鎮座されます。それは個人の思い込みではなく、脈々と続く伝統の継承という歴史の証に他なりません。
分霊とは、単なる儀式ではありません。分霊元の神社とご祭神、そして地域の人々が長年紡いできた「絆と歴史」という形なき文化を、新たな地へと分かち合う営みです。
当宮は、この伝統に則り、由緒ある越谷香取神社(埼玉県越谷市)より正式に御神霊を拝受いたしました。日本という本源の地から 、このカナダの地へ。必要な神事を一つひとつ丁寧に、かつ古式に則り厳修し、神様が安寧に鎮座されるための清浄な環境を整えております。
私たちが守り伝える「御由緒」とは、記録以上の重みを持つものです。それは日本から途切れることなく受け継がれてきた伝統であり、私たちが誠実にそのバトンを受け取ったという証明でもあります。
このカナダの地において、受け継いだ伝統を正しく継承しつつ、丁寧に奉斎し続けること。そして、ここカナダで、北米地域の皆様と新たな神様との絆を紡いでいくこと。それが、当宮がこのカナダの地で果たすべき大切な務めであると考えております。
香取神社の起源と由緒
御祭神と起源:国譲りの神話と武徳の象徴
香取神社の歴史は、日本神話の黎明期へと遡ります。全国に鎮座する香取神社の総本社である「香取神宮」(千葉県香取市)の御祭神は、天照大御神(アマテラスオオミカミ)の命を受け、出雲の「国譲り」の交渉を成就させた武徳の神、経津主神(フツヌシノカミ)です。
荒ぶる神々を平定し、国土の基盤を調和へと導いた圧倒的な御神徳から、古来より「国家守護の神」「勝運・武道の神」「災難除けの神」として絶大な崇敬を集めてきました。
歴史と格式:「神宮」の称号と歴代政権からの崇敬、そして日本武術の源流
香取神社は、日本の歴史のなかで古くから深い崇敬を集めてきた古社の一つです。
平安時代に編纂された『延喜式』神名帳において、当時「神宮」の称号を冠することを認められていたのは、伊勢神宮、鹿島神宮、そして香取神宮のわずか三社でした。この歴史的事実は、香取の神が古来より皇室や国家と深い関わりを持ち、尊い御神威を仰がれてきた証といえます。
中世以降は、源頼朝、足利尊氏、徳川家康といった名だたる歴代の武将たちがこぞって戦勝祈願や社殿の寄進を重ね、武家社会の精神的支柱として大切にされてきました。
また、香取は日本武道の聖地としても知られています。室町時代中期、飯篠長威斎家直(いいざさ ちょういさい いえなお)が香取の大神より神託を得て創始したのが、日本武道の古流として広く知られる「天真正伝香取神道流」です。この流派は、後世の数々の剣豪や流派に決定的な影響を与え、日本の武術・武道文化の偉大なるルーツとなりました。このように、歴代の武家や武芸者たちが捧げた篤い信仰は「香取信仰」とし て、日本全国へと広がっていったのです。
越谷香取神社と地域社会への継承
総本社の御分霊を祀る各地の香取神社は、その深い歴史と御神徳を正統に受け継いでいます。
当神社の宮司が権禰宜として奉職していた埼玉県越谷市の香取神社は、室町時代の応永年間(1394〜1428年)に勧請されたと伝わる由緒ある古社です。五穀豊穣や家内安全に加え、現代にいたるまで「縁結び・安産・子育の神」としても地域の人々の営みに深く寄り添い、篤く信仰されています。
カナダ香取神社への系譜
『古事記』『日本書紀』の神話の時代から現代へと連綿と紡がれてきた、平和と調和をもたらす武徳の精神。そして、歴代の朝廷や武家が畏敬の念を捧げた「香取」の気高い御神意。伝統の「型」と神聖なる御神徳は今、国境を越え、ここカナダの地へと正統に受け継がれています。
2026年8月30日、私たちは正式な「遷座祭」を斎行いたします。越谷香取神社からの使者として二名の神職がカナダを訪れ、古式にのっとった神道の儀式によって神様をこの地に勧請いたします。この儀式において、日本からお迎えする神様は、このカナダの大地を守る産土神(うぶすながみ)とともに祀られます。
これは、我が国の伝統と、この土地に宿る雄大な精霊との深い調和を象徴するものです。この歴史的な出来事は、カナダ本土においてこのような正統な儀式が行われる初の事例であり、私たちの神社が刻む歴史的な一ページとなります。
私たちが歩み始めたこの歩みは、私有地におけるささやかな規模のものですが、この新しい精神文化の拠点がこれからカナダの皆さまに温かく迎え入れていただけることを心より願っております。
カナダ香取神社がカナダの皆さまの精神的な支えとなり、この地の人々や大地とともに成長し、二つの文化を繋ぐ末永い架け橋となれますよう、切に祈念いたしております。